孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
鹿野さんは、僕の反応を面白そうにクスッと笑い、


「私が知る限り、どんなに考えても答えが見つからない時、霞って結構ぶっ飛んだ思考回路に振れるんです」

「……?」

「相当思い詰めた顔してたから、一応先生にご忠告しといた方がいいかなと思って」


僕を追い抜き、先に立って歩き出した。


「寝首を掻かれないように」


振り返り、バチッとウィンクを投げられ、僕はギョッとして足を竦ませる。
微妙に明後日の方向に目を逸らし、小さな溜め息をついて一歩踏み出した。


寝首もなにも、僕と霞の寝室は別だ。
しかし、『結構ぶっ飛んだ思考回路』……それはわりと的を射ているかもしれない。
彼女は、僕が離婚を拒否した時、『心中』などと口走った。
いったい、どういう思考が働いたのか――。


「…………」


僕は視線を流したまま、顎を摩って思案した。


瀧澤(たきざわ)さん、失礼します。明後日の手術に先立ち、術前訪問に参りました」


少しトーンを明るくした鹿野さんの声が耳に入り、ハッと我に返る。
気付くと、患者の病室に着いていた。
僕は気を取り直し……。


「執刀を担当します、脳外科の霧生と申します」


彼女の後から病室に入り、執刀前の挨拶をした。
< 136 / 211 >

この作品をシェア

pagetop