孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「だから契約じゃなく、ちゃんと……僕と結婚してください」


風の音に阻まれず、私の耳にはっきりと届いた言葉。
彼の想いが伝わってきた……それは、本物のプロポーズ――。


「っ……」


理解が繋がった次の瞬間、私は地面を蹴った。
身体の奥底からせり上がってくる想いに、どうしようもなく突き動かされる。


「はい……っ」


私は感極まって、彼の胸に飛び込んだ。


「おっと」


颯汰は両手を広げて、受け止めてくれた。
だけど。


「……霞、また人に見られるよ」


コソッと耳打ちされて、私は我に返って飛び退いた。
医学部棟の方から、白衣姿の学生が数人歩いてくるのに気付き、身を縮こめる。
一瞬だし、多分見られなかったと思うけど……。


「ご、ごめん……」


頭のてっぺんから蒸気が噴き出そうなくらい、顔を真っ赤にして謝った。


「いや。僕は見られても全然構わないんだけど」


颯汰は軽く宙を見上げて、しれっとうそぶく。
そして、再び私に目線を下げ、


「はい、って言ったよね。それじゃ、たった今から、霞は僕の本物の妻ってことでいい?」


ちょっと照れ臭そうにはにかんで訊ねてくる。
それには、何度も首を縦に振って応えた。


「じゃあ……これ」


颯汰は白衣のポケットから、小さなケースを取り出した。
< 206 / 211 >

この作品をシェア

pagetop