孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「ん」


私がグラスに両手を伸ばすと。


「これは僕の。茅萱さんはもう水にしときな」


無情にもひょいと取り上げ、テーブルの端に置き直してしまった。


「あー……。けちー」


恨みがましい目でジロッと睨む私に溜め息をつき、ソファを軋ませて立ち上がる。
空になったケーキのお皿を重ねて、キッチンに持っていった。


しっかりとした足取り。
私と同じペースで飲んでたのに、ほとんど素面と変わらない。
嘘か本当か、一般企業で営業の仕事に就く男性は、お酒が飲めないと出世に響くなんて話をまことしやかに聞くけれど、外科医にも同じことが言えるだろうか。
ふと壁時計を見上げると、針は午後九時半を指していた。


「もうこんな時間。……霧生君とお酒飲んでると、あっという間に時間すぎるな……」


私は、ポツリと独り言ちた。
すると。


「はい」


頭上から声が降ってきて、私はテーブルから顔を上げた。
霧生君が、ミネラルウォーターのペットボトルを手に、戻ってきていた。
私の前に置いて、ドスッと元の位置に腰を下ろす。


「あ、ありがとう」


私はペットボトルを両手で支え持ち、彼に目線を上げた。
霧生君は、テーブルから自分のグラスを手に取った。
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