溺愛ハンティング
 情けないのと、申しわけないのとで涙が出そうだったが、泣いている場合ではない。

 私は座っている八木さんに向き直り、改めて頭を下げた。

「八木さん、たいへん申しわけありません」
「どうしたんですか、急に?」
「お忙しい中、こうして来ていただいたのに、今日は何もお召しいただくことができないんです。私が至らないせいでプランがまとまっていなくて……改めてお詫びいたします」

 他のグループはもう服装が決まりかけているのに、彼にだけ無駄足を踏ませてしまった。
 レースでいえば周回遅れ。不機嫌になってもふしぎではない。

 ところが八木さんは静かにかぶりを振った。

「かまいませんよ。もともと今日は顔合わせだけって聞いていたし。まあ、実際には済んでましたけど」
「でも私だけ遅れていて、八木さんにご迷惑をかけてしまって」
「いえ、俺は全然。それにコンテストまで二十日以上あるから、挽回のチャンスはありますよ」

 さっきまで鼻にしわを寄せていたのに、今の彼は柔らかく微笑んでいた。

「俺は確かに忙しいけど、時間の融通は利くので平気です。わざわざボタニカルツアーに参加してくれたんだし、せっかくだからがんばりましょうよ」

 八木さんはそう言うと、立ち上がって右手を差し出した。

「最後にぶっちぎりましょう、鳴瀬さん!」
「はい!」

 気づいた時には、私は両手で八木さんの右手を握り締めていた。
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