溺愛ハンティング
 それからしばらく後、私たちは高砂屋本店四階のメンズフロアにいた。

 奇跡的に突然スタイリングのプランを思いついて試着をしに来た……わけではもちろんなくて、八木さんが私の職場を見たいと言ったからだ。

「へええ」

 八木さんは腕組みして、周囲を見回していた。
 売場の広さと、陳列棚に並ぶ数えきれないほどのシャツにすっかり圧倒されているようだ。

 ここでは既製品とオーダーメイドを扱っているが、国産品はハウスブランドの『タカサゴ・ウオモ』以外に十種類、インポートものは二十種近く揃えている。
 ベーシックなものが多いが、色もデザインも豊富で、中には十万円を超える高級品もあった。

 メンズフロアでは、女性やカップルのお客様も意外に多い。
 そんな中、八木さんはやはり視線を集めていたが――。

「すごいな。シャツだけでこんなにたくさん売ってるんだ」
「はい。お客様のお好みはさまざまですから、」

 子どものような反応がほほえましくて、私も自然と笑顔になる。
 すると八木さんが「なるほど」と呟いて頷いた。

「……なるほど?」
「ここに来たら、鳴瀬さんの表情が急に変わったなと思って。さっきより生き生きしていて、すごくいい」
「し、仕事ですから」

 八木さんはいつも直球だ。視線も言葉もまっすぐで、私はなんだか落ち着かなくなってしまう。
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