溺愛ハンティング
 しかしただでさえ追い込まれているのだし、いちいち動揺している場合ではない。

(しっかりしなきゃ)

 なんとか気持ちを切り替えようと深呼吸した時、八木さんが「探してください」と言った。

「鳴瀬さん、俺のシャツを選んでくれませんか? せっかくだから」

 ずいぶん唐突だったが、おかげで私は平常心を取り戻すことができた。八木さんをお客様と考えれば、だいぶ気が楽になる。

「かしこまりました。では、どんな時にお召しになる予定ですか? ネクタイはなさいます?」
「うーん、ネクタイはあまりしないな。あ、そうだ。このスーツに合うようなシャツがいいです」

 さらに好きな色や、いつも着るシャツのデザイン、好みの素材などを確認し、改めて八木さんに視線を向ける。

 もともと容姿に恵まれているから、今日みたいな淡いブルーのシャツも似合っていた。だが、日焼けした肌には黄味を含んだ色の方が映える。

 採寸し、いろいろ悩んで選んだのは、ごく淡いシャーベットオレンジの一枚だった。

 素材は張りのあるシーアイランドコットン。衿はタイスペースが広めのカッタウェイで、少し濃いオレンジの糸でアクセントにハンドステッチが施してあり、白蝶貝のボタンも美しい。

「八木さんには、こちらをお勧めいたします。どうぞご試着なさってください」

 私は笑顔で、そのシャツを差し出した。
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