溺愛ハンティング
 試着室から出てきた八木さんは少し頬を赤らめていたが、満足そうに微笑んでいた。
 そして思ったとおり淡いオレンジがよく似合って、とてもすてきだった。

「これ、とてもいいですね。いただきますよ。オレンジなんて初めて着たけど」
「どうもありがとうございます」

 八木さんは本当に気に入ってくれたらしく、これから会食があるので、そのまま着ていくと言ってくれた。

「では、お召しになっていたシャツをお包みしますね」
「ありがとう。だけど鳴瀬さん……できるじゃないですか、ちゃんと」
「えっ?」
「こんなにすてきなシャツを選んでくれたんだ。コンテストもきっと大丈夫ですよ。力が入っちゃうのはわかるけど、できるだけいつもみたいに自然にしていた方がいい」
 
 急に目の前の霧が晴れて、視界が開けたような気がした。

「あ……」

 確かに八木さんの言うとおりだと思った。私は力み過ぎて、勝手に迷子になっていたのだ。

 それにもうひとつわかったことがある。
 彼はこのアドバイスをするために、突然シャツを選んでほしいと言い出したのだろう。

 八木さんは支払いのためにカードを差し出してきたが、私は受け取らなかった。
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