溺愛ハンティング
 私たちは車の中でひっきりなしにしゃべっていたわけでもないし、実際たいした話もしていない。
 しかも八木さんは友だちではないのだ。

 人見知りで、あまり社交的とはいえない私には考えられないことだった。

(何で?)

 穏やかな低い声を聞いていると、ずっと前から隣でこうしていたような気がしてくる。二人でいる空気感が不思議なくらい心地よかった。

 振り返ってみれば、顔合わせの時も、彼のシャツを選んだ時も、いや、そもそも忘れた鉢を届けてくれた時も、同じように感じていたのかもしれない。
 全然意識していなかったし、彼の明る過ぎる髪も、完璧な容姿も、物怖じしない態度も苦手だと思っていたはずなのに。

 私がふいに黙り込んだからか、八木さんがちらりとこちらを見た。

「で、スタイリングのアイデアは浮かびました?」
「あ、ええ、少しは。でも、まだまとまっていなくて……資料はいろいろ見たんですけど」
「たぶん俺のせいだな。プラントハンターなんてわかりづらい仕事だし。まあ、今日は気分転換のつもりでのんびり楽しんでください。山には俺たちしかいないから」

 そう言ってから、少し慌てて「でも心配しないで」とつけ加えた。

「大丈夫。妙な下心なんてありませんから」
「まさか! そんなこと思ってませんよ」

 私がふき出すと、八木さんも笑ったが、ふと表情を改めた。

「いや、実はあります……下心」
< 38 / 55 >

この作品をシェア

pagetop