溺愛ハンティング
「わあ!」

 車を降りると、思わず声が出てしまった。

 冬の空は絵の具を溶かしたように真っ青だ。
 私は反射的に両手を上げて、大きく伸びをする。
 風は少し冷たいが、暖かい日差しのおかげでとても気持ちがよかった。

 この辺りは海が近いから温暖なのだろう。一月だというのに、周囲の景色は都心より少しだけ春めいて見える。

「こっちですよ、鳴瀬さん」

 八木さんについていくと、枯れ葉が積もったなだらかな道があった。

「いいところですね。空気がおいしい!」
「よかった。一番上まで行くと、海も見えますよ」
「楽しみです!」

 告白されたばかりだというのに、いや、告白されたばかりだからこそ、私は海という言葉に反応して駆け出そうとした。
 恥ずかしさと、うれしさと、困惑が自分の中で渦巻いていて、そうせずにいられなかったのだ。

「あっ!」

 その時、爪先が何かに引っかかった。
 勢いで、身体が前のめりに倒れそうになったが――。

「おっと」

 すかさず八木さんが腕をつかんでくれた。

「気をつけて。慣れていないと木の根に躓きますよ」
「……ありがとうございます」

 その流れで手をつないで歩くことになり、また鼓動が速くなってしまう。
 大学時代に恋人はいたけれど、こんなことは久しぶりだった。
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