溺愛ハンティング
「じいさんがやたらに花木を植えたから、ここは春になるとすごいんです。けっこう人が見に来るし」

 突然あんな告白をしたくせに、彼の様子はいつもとほとんど変わらない。

(もう!)

 変なテンションでいるのは自分だけ――そのことに少しだけいらだちながら、私は山道を歩き始めた。

 けれどもしばらく進んでいくと、そんなことは気にならなくなった。

 道に傾斜があって息が上がってきたせいもあるけれど、清々しい空気やチラチラ揺れる木漏れ日に癒されて、私はいつの間にか笑顔になっていた。
 真冬の山なんて枯れ木しかないだろうと思っていたのに、あちらこちらにピンクや白の花、赤い実などを見かける。

 ここの様子を見にきたという八木さんは木々だけでなく、私の視線もチェックしてくれているみたいで、絶妙なタイミングで名前を教えてくれた。

「その赤い実はカナメモチ。生垣によく使われます。あ、ほら、あれが十月桜」
「桜なのに冬にも咲くんですね」
「これはそろそろ終わりで、三月ごろにまた開花します。春の方が花も大きいかな」

 さらに二十分ほど歩くと、少し開けたところがあって、そこを囲むように可憐な小花をつけた木が何本も並んでいた。
 辺りには、ほんのりと甘い香りが漂っている。

「これは?」
「蝋梅です」

 のどかで優しい気配に包まれていると、なんだかいつもより素直になれる気がした。
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