溺愛ハンティング
 ここへ来た目的は気分転換のためだ。
 でも彼のことだから、これがスタイリングのヒントを見つける機会になればとも思ってくれていたはずだ。

「……まだみたいですね」

 私が答えられずにいると、八木さんは柔らかい笑顔を見せてくれた。

「だけど大丈夫。焦らないで。まだ時間はあります」

 それから八木さんはしばらく留守にすると続けた。枝切りに行くというのだ。

「枝切り?」
「ああ、もちろん知らないよね。ちょっと見ていてください」

 八木さんは立ち上がって辺りを見回すと、ダウンを脱ぎ捨てた。

「あの――」
「こういうことです」

 彼は背の高い木に近づいていった。後についていくと、その幹に手をかけ、スルスルと登り始めた。

「えっ? ええっ?」 

 八木さんがいるのはずいぶん上の方だ。もし落ちたら、ただではすまない。

 あまりのことに脚がガクガクと震え出す。頭の中は真っ白で、急に息苦しくなった。

(何? どういうこと?)

 けれども幸い八木さんはあっという間に、そして何事もなく下りてきてくれた。

「な、何なんですか? どうしてこんなこと――」 
「今のが次の仕事です。二月から三月は枝ものの注文が多いので、梅や桜の枝を切って集めておくんです。脚立や梯子も使うけど、高い木は登るしかないからね。半端な量じゃないので相当きついけど、俺は好きですよ」
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