溺愛ハンティング
 そういえば副社長がくれた雑誌にも、ロッククライマーみたいに南米の断崖を登っている写真が載っていた。
 その先に生えている希少植物を採取するためだ。

 微塵もそれを感じさせないけれど、命がけでこなしてきた依頼もきっとたくさんあるのだろう。

「危険な……お仕事なんですね」
「まあね。それに枝切りはきついし、地味だし、冬だからくそ寒いし、高校に入って初めて手伝わされた時は相当頭にきました。だから家業は継がないつもりで工学部に進んだんですけど、なんか結局戻ってしまって」

 八木さんは腰に手を当てて、周囲を見回した。
 柔らかいのに、どこか誇らしげな眼差しにつられて、張りつめていたものが少しずつ解けていく。

 気がつけば、私たちはどちらからともなく歩み寄っていた。

「ここ、いいところでしょ? 大学で進路に迷った時にうっかり来たら、八木苑を継ぐ気になっちゃったんです。じいさんの呪いかな」
「呪いって……でも、私も本当にすてきなところだと思います。今日は連れてきていただいて、ありがとうございます」
「いや、礼を言いたいのは俺の方ですよ。この山には珍しいものなんてひとつもないですから」

 穏やかだが力強い声に誘われて、私は八木さんと視線を合わせた。

「世界中いろいろ行ったけど、結局ここが一番好きで……だから鳴瀬さんと来られてよかった」
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