溺愛ハンティング
 ふと影が差して、何かが私の額に触れた。

(えっ?)

 一瞬のぬくもりがキスだと気づいた時には、もう唇は離れていた。

「ご、ごめん」

 驚き過ぎて反応できずにいる私の前で、端正な顔が見る見る真っ赤になっていく。

「でも、逃げないでくれて……ありがとう」
「いえ」

 そんな暇はなかったとか、額へのキスだからたいしたことないとか、だけどいきなりは反則だとか、大混乱の頭の中で何より強く感じていたのはどうしようもないうれしさだったけれど――。

「と、とにかくコンテストがんばりましょう。それからのことは、その後で」
「……はい」

 小さく頷いたものの、じわじわと不安が広がっていく。ボタニカルツアーに参加した時のことを思い出したのだ。

 大勢の女性たちから向けられた、少しだけ敵意を含んだ視線。

(それからのことって……)

 地味で目立たない私が、まばゆい八木さんの隣に立ってもいいのだろうか? 

「留守にするのは一週間くらいです。その間は電話に出られない時もあるけど、連絡はスマホに入れてください。もし緊急の場合は、八木苑にいるアシスタントの佐々木が対応するので」
「わかりました」

 その後、一時間ほどして私たちは帰途についた。

 八木さんのアシスタントである佐々木さんから連絡が来たのは、それから十日後のことだった。
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