溺愛ハンティング
 その日はコンテストの三日前で、翌日に試着の予定が入っていた。
 他のグループはすでにそこまで終えていたけれど、八木さんのスケジュールが合わずに遅れていたのだ。

 本人から毎日連絡が入っていたので、佐々木さんから電話があるとは思わなかったのだが――。

『お忙しいところ申しわけありません。八木苑の佐々木と申します』

 聞こえてきたのは意外に若い声だった。こういう連絡に慣れていないのか、口調が少しぎこちない。

『鳴瀬さんにお伝えするようにということだったんですが、実は八木が怪我をしてしまいまして』
「怪我?」
『作業中に梅の木から落ちてしまって』
「落ちたって、八木さんは今どこにいらっしゃるんですか?」

 瞬間的に頭に浮かんだのは、高い木に登っていた先日の姿だ。もしあんなところから落ちたりしたら――。

『こちらに戻ってまして、今は病院に』
「どこですか?」
『ち、ちょっとお待ちください。確認します』

 ふだんの私は話を遮ったりしないし、状況を把握してから動く。
 しかしアシスタントがわざわざ連絡を入れてくるなんて、よほどのことだと思った。

 もしかしてかなりの怪我なのではないか? いや、怪我で済めばいいけれど。

(ないから、絶対!)

 最悪の予想を打消し、売場のチーフのもとへと走る。
 どうしても八木さんに会わなければ――今はそれしか考えられなかった。
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