溺愛ハンティング
(八木さん、八木さん――)

 佐々木さんから教えられた総合病院は、高砂屋百貨店からタクシーで十五分ほどのところにあった。

(八木さん!)

 そんなことをしても何もならないのに、心の中で彼の名前を呼ばずにいられない。車内は暖房が効いていたが、震えが止まらなかった。

 私はなんてばかだったのだろう。
 せっかく好きだと言ってもらえたのに、あの場ですぐ応えられなかったなんて。

 どんなに自信がなくても、カップルとして全然つり合わなくても、八木さんを素直に信じればよかった。
 キスしてくれてうれしいと伝えればよかった。

 だって私も八木さんのことが大好きなんだもの。
 怪我の知らせを聞いて、ようやく自分の気持ちに気づくなんて、本当にどうかしているけれど。

「お客さん、着きましたよ」
「は、はい」

 私はタクシーを降りると、エントランスから中に入り、総合受付を目指して走った。
 個人情報だから病室は教えてもらえないかもしれないが、とにかく訊いてみようと思った時だ。

「あれ? 鳴瀬さん?」

 聞き覚えのある穏やかな声が私の名を呼んだ。

「どうしてこんなところにいるんですか?」

 少し先の方に目をやると、会いたくてたまらないと思っていた人がそこにいた。

「や、八木さん」

 車椅子も松葉杖も使っておらず、三角巾で腕を吊ってもいない。少なくとも外見上の変化はなかった。
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