溺愛ハンティング
「よかった」

 安堵のあまり、全身から力が抜けていく。

「危ない!」

 その場にへたり込みそうになったが、その前に力強い腕が私を支えてくれた。ちょうど山道で躓いた時のように。

「いって!」

 ただし今回は盛大な悲鳴つきだった。

「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、はい。昨日ちょっと足を捻ったので」

 八木さんは私からそっと手を離した。眉をしかめながらも、笑顔を見せてくれている。

「あの、入院されたんじゃ?」
「えっ? いや、軽傷ですから」

 その腕に抱き止められた時、ずっと探していた場所にようやくたどり着いたような気がした。

 胸に広がっていく想いは副社長に抱いていたものとは全然違う。

 高砂さんは振り向いてくれないとわかっていたから、安心してあこがれていられた。つり合わないと悩んだり、失うことを思って苦しんだりすることもなかったのだ。

 だけど八木さんは――。

「よかったです……本当に」
「佐々木に鳴瀬さんへ連絡するよう頼んだんですが、俺が入院したって言ったんですか?」
「いいえ」

 佐々木さんはそんなこと言わなかった。
 私が途中で彼の話を遮り、ひとりで勘違いして、ここへ駆けつけたのだ。

「八木さんが木から落ちて怪我されたと聞いて、私、私――」
「もしかして心配して来てくれたんですか?」
「……はい」

 次の瞬間、全身がぬくもりに包まれた。
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