溺愛ハンティング
 その夜の八木さんはどこまでも優しかった。

 岩肌や木の幹と格闘し続けている手の皮膚は硬くてザラザラしていたけれど、キスや愛撫は蕩けるようで、私を際限なく追い上げる。

「若葉……若葉……もっと感じて」
「や、だって……恥ずか、し」
「いいから。かわいい若葉を……たくさん俺に見せて」

 熱い吐息や掠れた声にさえ反応してしまい、体中に快感のさざ波が走った。

「八木さ――」
「若葉、これからは……耕輔と呼んでくれ」
「こ、耕輔さん」

 互いの名前を呼びながら、甘く深い口づけを繰り返す。
 たっぷり時間をかけて拓かれ、私は悦びに震えながら彼を受け入れた。

 やがて疲れ果てて眠りに落ちる前、私は耕輔さんに問いかけた。

「ね、どうして……落ちたりしたの?」

 何度も危険なハンティングを経験している彼にはあり得ない事故――その原因が知りたかった。
 病院での検査の結果、幸い骨に異常はないそうで、ランウエイも無事に歩けるそうだけれど。

「うれしくて……浮かれたんだ。それで下りきる間際に足を踏み外した」
「うれしくて?」
「見つけたんだよ」
「何を?」

 蓬莱の枝――そう聞こえたような気がしたが、私はもう目を開けていられなかった。

 かぐや姫のお話に出てくる宝の木。それさえも彼なら本当に取ってくるかもしれない。

 私は微笑みながら、夢の中へと運ばれていった。
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