因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 そう語る空木先生の声には確かに男性を惑わせるような色香がある。しかし私にとっては、虫の羽音のように不快だった。 

 そう感じてしまうのは、空木先生の言葉に劣等感を覚えたからだろう。

 彼女の予想に反して、妻である私に対して光圀さんが本気で性欲をぶつけてきたことはないから。

 でも、それは彼の純粋な思いやりだ。

 光圀さんは、単なる年齢や肩書きで人を判断しない。太助くんを弟子にしたのだってきっと……【前科者】というラベルだけで、彼の内面を計りたくなかったからではないだろうか。

 私はスマホを持っていない方の手を、力強くギュッと握った。

「光圀さんは、私を裏切ったりしません」
『そうだと信じたい、っていうあなたの期待を口にされてもね。……じゃ、そろそろ先生の元へ行きます。せいぜい眠れない夜を過ごすといいわ』
「待ってください、あなたの目的はなんなんですか?」

 通話を終わらせようとする空木先生を引き留め、必死で尋ねる。

 彼女が光圀さんに色仕掛けをしたとして、彼女になんの得があるというのだろう。

< 133 / 230 >

この作品をシェア

pagetop