因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「空木先生の仰る通り……俺は、あの素朴で穢れのない妻がかわいくてたまらない。十代の頃から、ずっと」
「えっ……?」
「長い片想いがようやく実ったんです。誰がなんと言おうと、俺は彼女を離さない」

 ぽかんとする空木先生をその場に残し、俺は踵を返す。

 ようやく自分の気持ちを自覚した今、彼女の声を聞きたくて仕方がなかった。

 はやる気持ちを抱えて足を進める途中、ふと空木先生に伝えたいことがあるのを思い出し、俺は彼女を振り返った。

「そういえば……空木流は衰退の危機にあるそうですね。香道界でもっとも巨大な八潮(やしお)流に飲み込まれ、その名を吸収されてしまう危機に瀕しているとか」

 空木先生は、動揺したように俺から目を逸らす。家元として、その危機感は肌でひしひし感じていることだろう。

 俺にとっても決して他人ごとではない。なにを隠そう醍醐流も、八潮流に比べれば、規模も知名度もちっぽけな流派なのだ。

 明治維新の廃藩によって一度は衰退の危機にあったと、祖父から聞かされたことがある。

 しかし、こうしてまだ俺は醍醐万斎を名乗ることができている。

 かつての醍醐万斎たちが、必死で踏ん張ったお陰だ。

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