因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「空木先生の苦しいお立場、痛いほど理解できます。しかし、どうかあきらめずに空木流の名を守ってほしい。同門ではないとはいえ、家元として香道を世に広めていく使命は同じ。助けが必要ならいつでもご相談ください。空木先生と空木流を、私はいつまでも応援しています」
「醍醐先生……」

 空木先生は、それまでのしたたかさをすっかり消し、子どものようにいたいけな表情になった。

 きっと苦しかったのだろう。そして、それを理解してくれる人間が周囲にいなかったせいもあるかもしれない。

 調べたところによると、今の空木流には俺にとっての伊織や太助、そして各地で俺の稽古を待つ弟子たちのような存在がひとりもいないそうだ。

 たったひとりでの戦いは、孤独に違いない。

「では、私はこれで」
「あの、醍醐先生!」

 切実な目をした空木先生が、俺を呼び留める。

 彼女は少しの間気まずそうに目を伏せていたが、やがて意を決したように顔を上げた。

「和華さんと、それから太助さんに……〝申し訳ありませんでした〟と伝えてください。私のひとり相撲に巻き込んで、おふたりを傷つけました」
「傷つけた、とは……?」

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