因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 * * *

 一式問屋には、父のお使いで子どもの頃からよく足を運んだ。

 店内には貴重な香木の数々、そして一般の仏事に使われる線香・焼香などが売られていて、複雑な芳香が漂っていた。

「いらっしゃいませー! ……あ、みっくん!」

 まだ小学生一年生だった和華は、俺をそう呼んでいた。幼い彼女曰く、『みつくに』という名は発音が難しく長いので、略して呼ばせてね、とのことだった。

 内心『みっくんは勘弁してくれ』と思っていたが、四つも年下の女の子に異議を申し立てるのも大人げない気がして、俺はその恥ずかしいあだ名を仕方なく受け入れていた。

「今日はなにを買うの?」
「父が取り寄せを頼んでいた伽羅(きゃら)を取りに来た」
「キャラ……キャラ弁のキャラ?」
「伽羅弁とはなんのことだ? 俺の言う伽羅は沈香の中でも最高級の香木で、語源はサンスクリット語。「黒」「木」を意味するカラアグルが、カラに縮まってそこから伽羅に――」

 一般的な小学生女子にとってまったく興味のない話だったと思うのに、和華はいつもふんふんと頷きながら俺の話を最後まで聞き、キラキラとした目で笑った。

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