因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「ねえ、約束覚えてる?」
俺を見上げたまま、和華がそう言って小首を傾げる。
「約束?」
忘れたわけではない。しかし、幼い彼女と交わした約束が今でも有効なのか半信半疑だったため、思い当たらないふりをした。
「……忘れちゃったんならいいや」
和華は少し残念そうに笑って、パッと視線を落とした。
その横顔はほんのり赤く染まっていて、きゅっと胸が締め付けられる感覚を覚える。
「香席」
ボソッと口にすると、和華が顔を上げる。素直すぎる目は期待に輝いていて、俺は照れくささに首の後ろを撫でながら告げる。
「たぶん、今の俺ならできると思う。……見に来るか?」
「行くっ! 絶対行く!」
即答した和華に面喰らいつつも、そんなに楽しみにしてくれていたのかと、胸が温かくなった。
しかし、父に無断で香間に人を上げるなど、本来なら言語道断。この計画は秘密裏に進めなければ。
たまに稽古をさぼる意外、両親に反抗したことなどなかった俺だったので、和華を秘密の香席に招くという背徳感に酔い、すっかり一人前の香道家になったつもりでいた。