因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「光圀さんも軽い気持ちで彼女をここに呼んでしまったのでしょうけれど……醍醐家の次期家元が、お点前の最中に一般の方に怪我を負わせるなんて、醜聞もいいところ。あなたが家元になれないだけでなく、お父様にも迷惑がかかるかもしれない」

 楓子さんの厳しい言葉に、思わず息をのむ。

「どうして父まで? 未熟者の俺を破門にして、別の優秀な弟子に醍醐流を継がせればいいだけじゃないですか」
「光圀さん、ご存じないのね。醍醐流ははるか昔から、血の繋がりのある者にしか家元の継承権がないのよ。実の息子か娘しか、万斎の名を継げないの。ひとり息子のあなたが破門になれば、醍醐流はそこで終わり。それがどれほど重大なことなのか、おわかりよね?」

 醍醐流が、終わる……。つまり、香道が発祥した室町時代からおよそ六百年もの間、その灯を絶やさずにきた先祖たちの努力を、無に帰すことになる。

 今さらながら、自分のしたことの罪深さに押しつぶされそうだ。

「そんなに青ざめなくても大丈夫です。彼女もあなたの立場はよく理解しているんでしょう? 私も決して他言しませんから、このことはお互い胸に秘めておきましょう」

 楓子さんが、俺の肩にポンと手をのせる。

 高校生の俺にでもそれが不誠実なやり方であるとはわかっていたが、その甘い囁きに乗る以外の選択肢が見えなかった。

 そして、結局父に報告しないまま、香間に広げたままの香道具を片付け、微かに残る和華の気配を消すのだった。

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