因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
こんなものを渡してなんになる。彼女の青春を奪った罪は重い。
今さらどんな顔をして会いに行けばいいのかもわからない。
後ろ向きな考えに食い尽くされそうになっていたその時、ふと、和華の声が頭の中に流れ込んできた。
『私、光圀くんが香道の先生になるところ、本当に楽しみにしているの』
自分の痛みそっちのけで、彼女はそう伝えてくれた。
ならば、今の俺にできるのは、その期待に全力で応える努力ではないだろうか。
俺は今まで、自分の立場にどこか胡坐をかいていた。父が引退する時が来たら、自動的に俺が万斎の名を継ぐのだろうと。
しかし、そんな簡単な話ではないというのも、頭の片隅でわかっていた。だからこそ、次期家元という立場の重圧から逃れたくて、稽古から逃げていたのだ。
和華の望むような『香道の先生』になるために、このままでいいはずがない。
俺はくるりと体の向きを変え、一式問屋に向かうのをやめた。
これからは心を入れ替え、家元になるための修行に全身全霊を傾ける。
そうして、家元の名に恥じない人間になれたその時、もう一度和華に会いに行こう。
心の内に静かな炎を燃やし、俺は商店街の喧騒を後にした。