因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
立て続けに両親を失った悲しみは言葉で言い表せないほどであったが、身内に訃報を伝え通夜と告別式を手配した後も、財産の名義変更など事務的な手続きに追われ、悲しみに浸る暇はなかった。
父の死に取り乱していたのは、息子である俺よりむしろ楓子さんだった。
『先生……どうして……っ』
父の死後もそのまま残してあった部屋にくずおれて涙する彼女を、俺は何度か目撃した。
彼女は家政婦だが、父が結婚する前からこの家で働いていると聞いているので、家族同然の思いがあるのだろう。
そんな時、俺は気配を殺してその場を立ち去り、彼女をそっとしておくのだった。
それから十年。俺は父から引き継いだ万斎の名に恥じぬよう、香道家として誠実に生きてきた。年齢も三十歳を迎え、些細なことでは動じない。
その日も文机に向かい、平らかな心持で書道に取り組んでいたのだが。
「先生、一式問屋のご主人からお電話です。折り入ってご相談があると」
突然部屋にやってきた弟子の伊織が、そう言った。
一式問屋の主人……和華の父親だ。