因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「光圀さん、なにをお願いしましたか?」
「家内安全だ。和華は?」

 境内を引き返す途中、興味本位で尋ねると、光圀さんは一家の長らしい返事をした。

「私は……」

 目を閉じて手を合わせた瞬間、自然と浮かんだ願いは『光圀さんとの赤ちゃんを授かりますように』――だった。

 夫婦で子どもについてまだ話したことはないが、一度家の蔵で目にした醍醐家の家訓が、ずっと心に引っかかっていた。

【家元、醍醐万斎の名跡は世襲制によってのみ受け継がれる】

 あの時は深く考えなかったが、彼と夫婦の営みをするようになると、急にその文言が現実味を帯びた。

 私は光圀さんの子を産まなければならない。そしてそれはきっと早い方がいいのだろうと思うと、ほんの少しプレッシャーも感じる。

「私は、夫婦円満です」

 少し考えて、光圀さんにそう伝えた。一応、嘘を言ったつもりはない。夫婦円満であれば、赤ちゃんだって自然と授かるだろうし。

「勿体ない。そんなものは仏様に導いてもらうまでもなく叶う願いだろう」
「今よりもっと、光圀さんと仲良くなりたいってことです」

 そう言って彼にぴったり身を寄せると、光圀さんはほんのり頬を赤らめ、ため息をつく。

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