因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「……はい」
言われた通り、大きく息を吸う。緊張がなくなったわけではないけれど、光圀さんが見守っていると思うと心強くて、私は今度こそ落ち着いて墨を磨り始めた。
間もなく、聞香が始まった。
手のひらほどの大きさの香炉が主賓から順に回され、光圀さんが炷いた香木の香りを聞く。
香炉の灰の中には温められた炭団が埋め込んであり、中心に空いた穴から立ち上る煙で、小さな香木を温める仕組みだ。
受け取った香炉は左手に乗せ、右手で軽く覆うようにして深く息を吸う。
この時醍醐流では、末席に回る頃に香りが弱まらないよう、息を吸うのは三回までとされているそうだ。
香りを聞き終えると、各々で墨を磨り、手元の記録用紙に答えを記す。
今日の組香は、五回の聞香で香りを聞き分ける『源氏香』。答えに源氏物語の帖名を使うという、趣のある組香だ。
五回分、すべての答えが出揃ったら、なにを炷いていたのか、光圀さんの口から答えを発表する。
今回、最高点を出したのは空木先生だった。流派が違うとはいえ、さすが香道のプロだ。
賞品の代わりに私が下手な字で書き写した全体の記録紙を空木先生に渡すと、香席も終盤。
「香満ちました」
光圀さんが、凛とした眼差しで正面を見据えながら、最後の挨拶をする。
それを合図に、最後に一同で礼をして、香席はお開きになった。