因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 墨を磨るのだって最初はうまくいかなかったし、大した仕事はしていない。それなのに褒めてくれる彼が、なんだかくすぐったい。

 光圀さんは香道に関してもっと厳しい人なのかと思っていたから、優しい反応が意外でもある。

 その時、冷たい北風がぴゅう、と私たちの間を通り抜け、光圀さんがそっと私の背中に手を添えた。

 今日は曇っているので、寒さがいっそう骨身に染みる。

「体が冷えるといけない。空木先生がお帰りになるまで中で待っていよう」
「はい」

 ふたりで門の中に入り、母屋へ足を進めようとしたその時。ちょうど前方から空木先生が太助くんを伴いこちらへ歩いてきた。

 間もなく私たちの前まで来ると、空木先生はニコッと微笑む。

「醍醐先生、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「空木先生にそう言っていただけて大変光栄です。寒い中お越しいただき、こちらこそありがとうございました」

 光圀さんの丁寧なあいさつを受け、空木先生は深々とお辞儀をする。そして顔を上げると、不意に太助くんを見た。

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