因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「じゃ、また会いましょうね、かわいいお弟子さん」
「……お気をつけて」
お客様の空木先生に対しても、太助くんはいつもの塩対応。
彼女を怒らせやしないか心配になったけれど、先生は気に留めた様子もなく、間もなく到着したタクシーに乗り込み帰っていった。
見送りが終わり三人で母屋へ向かう途中、太助くんがふと口を開く。
「先生、食堂で伊織さんが呼んでいましたよ。例の企画の詳しい内容、届いたみたいで」
「そうか、わかった」
光圀さんは頷き、庭の敷石を早足で歩いて先に母屋へ戻っていった。
私は少し、部屋で休ませてもらおうかな……。
「どうでしたか、初めての香席は」
光圀さんの姿が見えなくなると、太助くんに聞かれた。
成功したとは言い難いので、思わず苦笑する。
「すっごい緊張しちゃった。最初は墨もうまく磨れなくて、光圀さんに『落ち着いて』って助け舟出されちゃうくらい」
「……へえ」
太助くんは頭の後ろで手を組み、興味なさそうに相槌を打つ。