因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「病院はいい。和華に触れれば、治る気がする」
「えっ? ……きゃっ!」

 キョトンとしているうちに、光圀さんの逞しい腕が私を抱き寄せる。

 小さく悲鳴を上げて彼の胸に倒れ込むと、光圀さんが尖った鼻先を私の髪に近づけ、すん、と鳴らした。

 か、嗅がれてる……⁉

「やはり、そうか」

 真っ赤になって目を白黒させる私に構わず、光圀さんはしっとり落ち着いた声でひとり納得している。

 それから体をそっと離した彼は、私の顎をくいっと引き上げ、至近距離で目を合わせた。吸い込まれそうな深い色の瞳に、戸惑う私の情けない顔が映る。

「眠れないのはきみのせいだ」
「えっ? ……ま、まさか私、変なにおいが」
「そうではない。むしろ逆だ」

 光圀さんの手が、顎からスッと耳の脇へ移動し、私の髪を無造作に耳にかける。

 彼はおもむろにその場所に顔を近づけ、先ほどのようにすん、と鼻を鳴らす。

 直後にうっとりしたようにため息をつき、耳のそばで彼の吐息を感じた私はくすぐったくて肩をすくめた。

「同じ部屋で、この魅惑的な香りの持ち主が眠っている。でも、布団は別々で、手を伸ばしてもわずかに届かない。その距離がもどかしかったんだと、今ようやく気がついた」
「光圀さん……」

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