因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「へえ~。さすがは一芸を極めてる旦那様ね。同じ布団に入ってキスまでしてるのに本能に負けないなんて。自分を律する能力に長けてるんだわ」
「それって、男の人にとってはやっぱり大変なのかな?」
「と、思うよ。うちの兵吾なら絶対に我慢できない。ねえ兵吾、そうでしょ?」

 貴英が、前方にいる兵吾くんに向かって大声を出した。

 実は、この人力車を引いているのは貴英の夫、兵吾くん。彼は高校を卒業してからずっと、大好きな浅草の街で車夫(しゃふ)の仕事をしているのだ。

 常に屋外で仕事をするせいか、精悍な顔は冬でも日に焼けていて、スッキリ額を出した短髪がよく似合う。イケメン車夫としてテレビに出たこともあるくらいだ。

「えっ? なに? 聞こえなかった!」

 兵吾くんは交通状況を確認するため前を向いたまま、貴英に負けないくらい大きな声を出す。

 車道を走っているため、周囲の車の音にかき消されてしまったらしい。

「あっそー。ま、いいや。引き続き安全運転よろしくー」
「はいよ、了解~」

 今度は聞こえたらしく、兵吾くんは片手を上げて返事をする。簡単なやり取りでも、ふたりの信頼関係が伝わってくるようでほっこりした。

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