囚われの令嬢と仮面の男
「お父様って、姉様にだけは甘いわよね」
「言ってやるなよ。……まぁ。本当のことだけど」
お父様の態度に不満をもらす妹を、口では窘めつつも同意する弟。ふたりの視線に居た堪れず、ふり返ることもできずに退室した。
お父様が私にだけ甘い……それは確かにあるだろう。
お父様は私にだけ甘い顔をする。優しい言葉をかけて気にするな、となぐさめてくれる。
妹のクリスティーナや弟のアレックスには時として厳しい表情を見せるのに、私にはそうしない。
その理由を述べるとしたら、私だけが"前妻の娘だから"だ。
かつてお父様が心から愛した実母は、十六年前、突然この屋敷を出て行った。私とお父様は“ママ”に捨てられたのだ。
*
「昨夜の舞踏会はつまらなかったかい?」
「いえ、そういうわけでは……。ただお父様とお母様に喜んでもらえる殿方をなかなか見つけられなくて……。私」
帰りがけに会った彼、エイブラムのことは敢えて口にしなかった。たったひとことふたこと、言葉を交わしただけに過ぎないので、両親に過剰な期待をされても困ると思った。
「焦ったって、いい結婚はできないさ」
「言ってやるなよ。……まぁ。本当のことだけど」
お父様の態度に不満をもらす妹を、口では窘めつつも同意する弟。ふたりの視線に居た堪れず、ふり返ることもできずに退室した。
お父様が私にだけ甘い……それは確かにあるだろう。
お父様は私にだけ甘い顔をする。優しい言葉をかけて気にするな、となぐさめてくれる。
妹のクリスティーナや弟のアレックスには時として厳しい表情を見せるのに、私にはそうしない。
その理由を述べるとしたら、私だけが"前妻の娘だから"だ。
かつてお父様が心から愛した実母は、十六年前、突然この屋敷を出て行った。私とお父様は“ママ”に捨てられたのだ。
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「昨夜の舞踏会はつまらなかったかい?」
「いえ、そういうわけでは……。ただお父様とお母様に喜んでもらえる殿方をなかなか見つけられなくて……。私」
帰りがけに会った彼、エイブラムのことは敢えて口にしなかった。たったひとことふたこと、言葉を交わしただけに過ぎないので、両親に過剰な期待をされても困ると思った。
「焦ったって、いい結婚はできないさ」