囚われの令嬢と仮面の男
10.深夜の来訪者

 ザリ、と靴裏が地面を擦った。

 驚きと恐怖で二、三歩後ずさり、私はその場にへたり込んでいた。

 こんなの、いつからあったのかしら……?

 しばらくの間、裏庭へ来ていないからわからない。やはり今日の午後にでも来ておくべきだった。

 視界が下がったことで、地面のあたりで何かがキラリと光るのを捉えた。

 なに……?

 そちらを注視すると、鈍色(にびいろ)の刃物が茂みに隠すように置かれていた。ちゃんと確認するため、両手で地面を押して腰を持ち上げた。

 少しだけ近づいて見ると、二本の長い(つか)の先に尖った刃が付いていた。これまでに何度か見たことがある。

 こんなの、だれが……?

 庭師のおじさんが生垣を整えるときに使っている剪定鋏(せんていばさみ)だ。確かおじさんは刈り込み鋏と呼んでいた。

「……もしかして」

 ポツリと呟いた瞬間、そら恐ろしい気持ちが稲妻のように走った。背中に冷たい風が通り抜けるような寒気がして、急いで花壇まで戻る。

 汗が冷えたせいで少しだけ寒い。片手で腕をさすりながらランタンを左右に振った。生垣の辺りを、目を凝らして見てみるが、だれの姿も見られない。
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