囚われの令嬢と仮面の男
 あの隠された(はさみ)で生垣が切られたのは明白で、今ああして置いてあるということは、私がここに現れる直前に切られた可能性もあるということだ。

 すでに外からだれかが侵入していたとしたら、このまま裏庭に居座るのは危険かもしれない。ぶるぶると足元が震えた。

 とにかく一度通用口まで行って、アレックスが戻って来るのを待とう。そうするのが最善だ。

 花壇にできた暗い穴を見つめ「待っててね」と声を掛けた。くるりと踵を返したとき、背後に人の気配を感じた。

「……マリーン?」

 突然のことに体がビクッと跳ね上がり、ひゃっ、と声がこぼれた。驚きのあまり心臓が止まりそうになった。

 背中からの声を確認するために振り返ると、目を皿のようにして立ち尽くすお父様と目が合った。私に向かってランタンを掲げたまま呆けている。

 得体の知れない侵入者ではなかったことに、いったんは安堵の息をつく。

「なにをやっているんだ、こんな夜中に……?」

 そういうお父様こそ……。

 思ってすぐに体が硬くなるのを感じた。

 ちょっと待って。お父様が裏庭(ここ)にいるということは、アレックスは?
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