囚われの令嬢と仮面の男
 ここへ来るまでの道のりで入れ違いになっていたら問題はないんだけど。もし見つかっていたら……。

 アレックスのことを思い、胃がキリキリと痛んだ。

 書斎に向かったアレックスのことといい、花壇を掘り起こしたことといい、今が安堵できる状況でないのは明らかだった。

 花壇から少し離れたところに立つ私を見て、お父様が一歩二歩と足を出した。

 お父様の足が、置き去りにしたシャベルに当たった。カランと乾いた音がした。

「ああ」と声を出し、お父様が嘆息する。足元にあるシャベルを見るついでに、深い穴のできた花壇をじっと見つめていた。

「ガーデニングをしていたのか?」

「……っえ」

 冷たい夜気がひゅっと口から入り、僅かに呼吸を狂わせる。

「今日おまえの侍女から聞いたよ。また新しく花を植えるんだろう? 早くやりたい気持ちはわかるが、明日にしなさい。侍女を連れておまえの好きな花を、好きなだけ買ってくるといい」

「なにを、言っているの……?」

 底知れぬ不安から私は両手を持ち上げ、胸の前で握りしめた。唇が震えそうになるのは寒さだけのせいじゃない。

「これはお父様がやったの?」

「なんの話だ?」
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