囚われの令嬢と仮面の男
 赤い表紙を指先で撫でながら、ソファーに腰を下ろした。

「まぁ、それはもしかするとお嬢様、恋されているということですか? お相手は? どちらの家柄の方ですか?」

「オークランド男爵のご長男で……エイブラムさんって方よ。とても穏やかな感じがして……素敵な男性(ひと)だった」

 なんとなく気恥ずかしくて、マーサの顔が見れない。

 この気持ちの変化は彼女が言ったように、恋、なのだろうか。

「それはそれは」

 マーサは嬉しそうに声を弾ませた。

「お嬢様が幸せな気持ちでいてくれると、私も嬉しいです。その方とうまくいくと良いですね」

「え、ええ。ありがとう」

 マーサの穏やかな横顔を見つめて、ふと思い出していた。

 以前、彼女から聞いた話では、マーサは何年も前に弟さんを事故で亡くしているらしい。

 当時は塞ぎ込んでしまって大変だったようだけど、私との生活を始めてようやく安定したと言っていた。

 戸棚からティーポットを出し、マーサがいそいそとお茶の準備を進めている。が、その手をピタリと止めて、私へと向き直った。

「そうだわ、お嬢様。今日は天気も良いことですし、久しぶりに外でお茶をしませんか?」

「外で?」

「ええ。お嬢様がお育てになっている花壇にデイジーが咲いていましたし、ね、そうしましょう?」
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