囚われの令嬢と仮面の男
 私の花壇、ということは裏庭の花壇だ。幼いころ、お父様にお願いしてつくってもらった場所。

 あそこはよく陽も当たるし、花を愛でながらお茶をするというのも、確かに悪くない。

「そうね」

 私はマーサの提案を快く受け入れた。

 *

 燦々(さんさん)と降り注ぐ日光を浴びて、開花した白、赤、黄色のデイジーをしゃがんで愛でていた。自然と口元に笑みが浮かんだ。

 そばにあるテーブルセットではマーサが白いポットを手に、お茶の準備を進めている。

「この花壇は土が良質なのか、どの種を植えても綺麗な花を咲かせますね、お嬢様」

「ええ」

「ちなみにデイジーの花言葉は、『純潔』や『希望』。黄色の花に関しては『ありのまま』だそうです」

 マーサから黄色と聞き、私は指先でその花弁に触れた。

「いつかありのままのお嬢様を、心から愛してくださる殿方ときっと出会えます」

「マーサ……」

 しゃがんだままで彼女を見上げると、眩しい笑みが降ってくる。

 「さぁ、お茶の準備ができましたよ、マリーンお嬢様」。マーサの柔らかい声が言った。

 小さく可愛い花を咲かせる花壇から離れ、ティーカップを目の前にして座る。

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