囚われの令嬢と仮面の男
 *

 次に男が現れたとき、私は青い表紙の本を開き、物語の中盤ぐらいまで読み進めていた。ほかにすることがなく、暇だった。

 男はガチャガチャと音を立てながら、また紙袋を二つ抱えて入ってきた。出入口に鍵を掛けるのも忘れない。

 ベッドの上で膝を三角に曲げて読書する私を一瞥し、「面白いか」と聞いた。

「まだ分からないわ。ラストが気になりはするけど」

「へぇ」

 私が大人しいからだろう、男の安堵が伝わった。男は紙袋の中から、また食べものを取り出した。

 薄いパンが数枚とチキンやソーセージの肉料理だ。それぞれ丁寧に紙で包まれている。前回と同様にミルク瓶も出てきた。

 もうひとつの袋からはグラスや皿、カトラリーなどの食器類を出してきて、空いた戸棚に幾つか収納していた。

 料理がきちんと皿に盛られ、テーブルへと並んだ。

「いつもは酒を飲んでいるだろうが、これで我慢してくれ」

 そう前置きをしてからグラスにミルクを注ぎ、「夕食だ」と声を掛けられた。食事はひとり分しかなく、男は食べないのだな、と思った。

 本を閉じてテーブルに近づく。初めて会った時ほど、男を恐れていない自分に驚いていた。
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