囚われの令嬢と仮面の男
 手足を自由にされたことで、この状況にも慣れてきているのだろう。

 すぐそばに立つ男を見上げ、「いただくわ」と返事をする。

 私が椅子に座ると、白いナフキンが手元に寄せられた。

「あとそれから……これが必要だろう、渡しておく」

 男がポケットに手を入れ、金色のチェーンが付いた丸いものをテーブルの上に置いた。

「……あ」

 懐中時計だった。今の今まで、時間も分からずに生活していたので、時計の存在はありがたかった。

 今は夕刻の六時だ。

「俺は毎日、きっかり朝の九時と夕方六時にここへ来る。もし風呂を使うならそれまでの時間に済ませておけ」

 風呂、と聞いて肌着やネグリジェが置いてあったことを思い出し、少し不快な気分になる。

「わかったわ」

 ナフキンを膝の上に広げ、パンを食べはじめた。

 これまでも男が午前九時と午後六時に現れていたとするなら、前回来た時間は朝の九時だ。おそらくその前は前日の午後だと考えられる。

 私がこの部屋に軟禁されてから、丸一日が経過したことになる。

 すぐ出て行くものだと思っていたら、男がベッドのそばに立ち、私がさっきまで読んでいた本を興味深そうに眺めていた。
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