囚われの令嬢と仮面の男
「あなたも本を読むの?」

 男が振り返り、「いいや」と返事をする。

「私が本を読むこと、誰から聞いたの? ミューレン家の者?」

「その質問に答えるつもりはない」

「そう。だと思った」

 ソーセージをフォークで刺して、齧る。冷めているけれど、なかなか美味しい。質がいいのだろう。

 そういえば朝に食べたりんごもパンも良質なものだった。

 仮面の男は単なる平民というわけでも無さそうだ。

 そう考えたところで、いや、と首を捻る。

 平民じゃないと決めつけるのはまだ早い。もしかしたら、私に必要な衣類や食事は、別の人間が用意しているのかもしれない。つまりは共犯者が。

 やはりミューレン家の誰か、という線が濃厚になる。そうなると共犯者であり、内通者だ。

「ねぇ。聞いても無駄だってことはわかってるけど。お父様は無事なの? 心労で倒れたりしていない?」

「屋敷の内部に関しては知らないが、当主は無事だ。今日は街の広場にキミの顔が描かれたビラが貼ってあったな」

「私の行方を、探してるってことね?」

 椅子を引いて立ち上がると、ガタ、と音が鳴った。
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