囚われの令嬢と仮面の男
「あなたはそれを見ても平気なの? 娘を心配する父親を見て心が痛まないの?」

「食事中に席を立つのは無作法だ。ちゃんと座ってさっさと食べろ」

 ぐ、と口を噤み、仕方なく椅子に座り直した。

 悔しい……。悔しいけど、その通りなので言い返せない。

 いつまで居るつもりかわからないが、男はパラパラと本を眺めながらベッドに腰掛けている。

 ふいに男をやり込めてやりたい気持ちが芽生えた。

「私の服と肌着だけど……。よくサイズがわかったわね。見た目からの想像で揃えたの?」

 男は暫し無言で俯いた。参ったな、と言いたげにフードごしに頭を掻いている。本を傍らに置いた。

「俺を変態だと言いたいのかもしれないが……その質問にも答えるつもりはない」

「あら、そっ」

 変態さん、と心で呼んでみる。

 今度からそう呼ぶのも悪くない。男に対して呼び名がないのは、なんとなく不便だった。

「キミは」と男が言いかけて、言葉を切る。

 時計の秒針がカチカチ鳴るだけの静寂が続くので、試しに応答する。

「なによ?」

 男が私のほうへ顔を向けた。白い仮面のせいで相変わらず表情はわからない。
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