囚われの令嬢と仮面の男
「マリーンは。あの屋敷にいて窮屈じゃないのか?」

「……え」

「母親とは血のつながりがないし、妹や弟には引け目を感じているだろ?」

「どう、して」

 家族構成まで知られていたことに、今さらながら驚く。

 私をよく知る人物に誘拐を依頼されたと考えるなら、知っていて当然かもしれないけれど。完全に不意打ちだった。

 カトラリーを持つ手を止めて、私は男を見つめた。

「ましてや父親は溺愛という建前でキミから自由を奪っている。キミ個人を尊重しているわけじゃないのに……マリーンはそれでいいのか?」

「それは違うわ!」

 男の言い草にカチンときて、再度、席を立ちそうになった。唇をギュッと結んだままで踏みとどまり、男に言い返した。

「お父様はちゃんと私を尊重してくれてる。確かにちょっとした束縛はあるけど、それはママのことがあったからよ。十六年前、ママがあの屋敷を出て行ったから……だから私にも出て行かれたらって。お父様は恐れているだけなの」

「キミ以外に家族がいるのに?」

「……それは」

「どのみちキミは、この先誰かと婚約してあの家を出る身だろう。父親はそれすら許してくれないのか?」
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