囚われの令嬢と仮面の男
「けれど。その子が事故で亡くなって……会えなくなったの」

「そうか……。それが原因で?」

 悲しくてうなされるのかという質問だ。私はううん、とかぶりを振った。

「その子は私のせいで死んじゃったの。私が……。お父様の言いつけを破って遊んでいたから。お父様は、私を取られると思ってその子を」

 男は無言だった。意味がわからずに思案しているのかもしれない。

 それもそのはずだった。私は肝心な部分を口に出したくなくて、曖昧にした。

 しかしながら、男はニュアンスから想いを汲み取った。

「つまり、キミの父親がその少年を殺したかもしれなくて。キミは今でも罪悪感を抱えている、そういうことか?」

 顔をあげて男を見つめる。自然と目に涙がたまった。

「別に責めているわけじゃない。と言うより……。誰もキミを責めたりはしない。マリーンにはなんの落ち度もないんだ」

「でも。お父様ならやりかねない。私がもっと慎重に考えて、イブに遊べないって伝えておけば……っ、あの子は死なずに済んだもの」

 そうだ。

 あのとき、一度生垣が修繕された段階で、もう来ないでと伝えていれば。イブは死ななかったかもしれない。
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