囚われの令嬢と仮面の男
 感情のコントロールが効かない。喉奥から込み上げるものを感じて、唇がへの字に曲がる。嗚咽がもれた。両手で顔を覆い、しばらく泣き続けた。

 会ったばかりの、顔も知らない相手に、私はまた悩みを打ち明けている。どうしてこうも弱いところをさらけ出してしまうのか。納得のいく理由が見つからなかった。

「きっとその子は……マリーンがそう伝えていたとしても。めげずに迎えに来ただろうな……」

「……え」

「子供なんてそんなものだろう。目の前にあるオモチャを取り上げられて、素直に従うことなんかできない」

 両手で涙を拭い、グス、と洟をすすった。男の表情が無性に気になった。この男がいったい誰であるのかも。

「そうね」

 この男はもしかすると、私とイブのことまで知っていたのではないか。

 男が先ほど口にした言葉から、なんとなくそう思ってしまった。単なる言葉のあやなら仕方ない。

 けれど私は、屋敷を抜け出して遊んだとは言ったが。イブが私を迎えに来ていたとは言っていない。

 知っていたとしたら、それこそ共犯者から聞いていたからだ。だとしたら、共犯者(それ)は妹じゃない。"あの人"だ。

 やっぱり……っ、あの人なんだ。

 膝に敷いていたナフキンを取り、涙が止まるまでグッと押さえた。
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