囚われの令嬢と仮面の男
 *

 一日に二度の様子見と、男との会話、朝食と夕食。

 食事とは別に、男は数日に一度のペースで、私に必要な(リネン)や洋服を部屋に運び入れた。さらには読み終えた本を新しい(もの)と交換した。

 好みなど一切伝えていないのに、男が持ってくる物はどれも的確だった。

 私は男に共犯者が誰なのかを問い詰めなかった。男に誘拐を依頼した動機は気になったけれど、直接本人から聞きたいと思っていたからだ。

 私と男の日々は、そうして穏やかに続いた。

 お互いの存在に慣れてしまい、私と同様に男の警戒心も薄れたのだろう。

 そうでなければ、一緒にいる時間に男が居眠りをするはずがなかった。人質の目の前で、あまりにも間の抜けたミスだ。

 本に集中しているからといって、それに気づかないほど私は鈍くない。

「寝て……るの?」

 ポツリと呟き、ベッドの背にもたれかかる男を注意深く観察した。

 本をわきに置き、ベッドから降りる。床の軋む音にも、そうっと動いて対処した。

 男の目の前に座り、ジッと正面から見据えた。仮面に空いた目の穴に、まぶたを伏せたまつ毛が垣間見えた。

 少しだけ近づき、耳をそばだてると、かすかに寝息を立てている。

 しめたわ……!
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