囚われの令嬢と仮面の男
「だから……縄はすぐにほどいた。それに変って、ひどいな……」

 眉を寄せ、不満をこぼす表情が少しだけ子供っぽい。今まで表情が見えなかったぶん、もっと色々な反応が見たくなる。

「せっかくあなたのこと、いいなって思ってたのに……がっかりだわ」

「え」

「けどいいわ。これからは顔を見て話せるぶん、安心だし。もちろん、私に対する敬語もなしでいいわ」

「……あ、あぁ」

 エイブラムは少し首を傾げた状態で眉を寄せていた。困惑しているのだと思った。

「今後は顔を隠す必要もないんだから、この仮面は私が預かっておくわね」

 一度床に落としてしまった仮面を拾い上げ、私はテーブルのほうへと向かった。側にある戸棚を開け、木製の食器の奥に仮面を立て掛けた。

「ねぇ、エイブラムさん。あなたに聞きたいことがたくさんあるんだけど、いいかしら?」

 返事を待たずに振り返ると、彼は床から立ち上がり、ベッドの縁に腰を下ろした。

「どうしてあなたが誘拐の実行犯なの? あなたは以前他人(ひと)に頼まれてしたことだって言ったけど、これはあなたの意志でもある、そうも言ったわ。なぜこんなことをしたの?」
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