囚われの令嬢と仮面の男
「……それは」

 口が重いのか、彼は一旦口籠もる。やはり聞かせてはもらえないのだろうか。彼の煮え切らない態度がどうにも焦ったい。

「それじゃあ質問を変えるわ。今こうしていることについて、あなたにはメリットが無さそうだけど……私には意味がある、そうも言ったわよね? それはどうして? どういう意味なの?」

 エイブラムが一度私を見てから、視線をそらした。眉が中央に寄せられ、苦渋の決断を迫られているかのようだ。

 やがて重苦しいため息を吐き出し、彼がポツリと言った。

「キミを……あのままあの屋敷に置いておきたくなかったからだ」

「……え?」

「キミは選ばれないんじゃない。むしろ選びたくてもカゴの鳥で。誰にも手が出せないんだ」

「なによそれ……、待ってよ、どういうこと?」

 彼の座るベッドへ寄り、立ったままで彼と向き合った。

「そのままの意味だよ。現に俺もローダーデイル伯爵に、キミの婚約者候補として申し込んだ。けれど、会わせてももらえなかった」

 ドキン、と大きく鼓動が打った。

 婚約者候補……?

 予想だにしない単語が飛び出して、動揺を促される。
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