桜の花びらのむこうの青
彼はテーブルの上に置いた私の両手をそっと自分の手で包むと、私を正面から見据えて言った。

「一緒にニューヨークへ来てくれないか?」

思いがけない彼からの言葉に目を丸くして見つめ返す。

「俺と結婚してほしい」

結婚?!

彼が私を大切に思ってくれてることはわかっていたけれど、今彼にとっての最優先は仕事のはず。だから、結婚なんてもっと先だと思っていたのに。

「君がそばにいてこそ、やりたい仕事に集中できるんだ。帆香がどれほど俺にとってかけがえのない存在なのか、一人でニューヨークで過ごしてはっきりと気付いた」

そう言うと、私の手を強く握りしめた。

「俺は命をかけて君の人生を幸せにする」

私はくすっと笑うと彼の目をまっすぐ見つめ答えた。

「命なんてかけなくたって、私は今までもこれからも十分幸せだよ。あなたの存在がある限り」

「今はその言葉がかなりずっしりくる」

彼は少し目を伏せて苦笑した。

「どんな場所へ行ったとしても必ず私の元に戻ってきて」

「ああ、必ず戻る」

「約束よ」

「わかった」

「これからもどうぞよろしくお願いします」

私はめいいっぱい微笑み、彼の手を握り返す。

省吾さんはその言葉にホッとしたのか首をすくめ「よかった」と笑った。

結婚するって決めた瞬間がこんなにも自然で優しい空気に満ちているものなんて思いもしなかった。

きっとこれも省吾さんだったから。

彼だから肩の力を抜いて全てを受け入れられる。


グー……

こんな時にやだー!

思いっきり大きな音で私のお腹の虫が鳴る。

「帆香はごまかせても、お腹はごまかせないね」

彼が顔を両手で覆って笑い出した。

「だって、しょうがないじゃない。生理現象だもの」

恥ずかしいというより、この状況がおかしくて私も彼と一緒に笑いが止まらなくなる。

きっとこれが生きてる証。

生きてる=幸せってことなんだ。他に何もいらない。

それだけで十分!

笑い転げているところに、店員さんがキョトンとした顔で私の前にロイヤルミルクティーを置いていった。
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