ママの手料理 Ⅲ
大也の方を睨みつけて冷戦状態だった仁さんが、ふっといつもの笑みを浮かべて私を見下ろす。


自分の本音や本当の感情を隠すような、あの当たり障りのない営業スマイルじみた笑顔で。


「…そうだね、行こっか」


そのまま、仁さんと私がくるりと踵を返したその時。


「…何してんだ部外者共、此処はお前らの部屋じゃねーだろ」


タイミングが良いのか悪いのか、今まさにお風呂からあがったばかりの琥珀が部屋着姿で首にタオルを掛けたまま脱衣所から現れたのだ。



(…げ、)


それもそうだ、彼がお風呂に入っている間に一連の出来事が起こった訳だから、彼が何も知らないのは当たり前。


だけど、そうだけど。


(絶対タイミング違うでしょ…!)


部屋に何人の部外者が居るのかと、こちらに向かって歩きながら人数をカウントしている彼の目と、私の目が合う。


お前か、と片頬を歪めた彼は、そのまま流れる様に私の隣に立つ男性を見て、


「何してんだ今すぐ帰れ、そんで死ねお前」


狼のような目をして、仁さんが一言も発しない傍から冷たく言い放った。


(ちょっ、)


逃げるが勝ちだ!、と感じた私は仁さんの腕を強く引っ張ったのに、


「……死ね、?」


いつもはあの笑顔でさらりと受け流すはずの彼はその場から動かず、代わりにゆっくりとその口を開いた。
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