ママの手料理 Ⅲ
「だってそうじゃない？家族が全員で仲良く一家心中しようとしてた時に逃げ出しちゃったんだもんねぇ、弱虫琥珀君？」


「んだとおいゴラァ」


仁さんは容赦なく琥珀の過去の地雷を踏み、琥珀は目をギラつかせながら売られた喧嘩を買う。


琥珀の左手の握り拳が、ぶるぶると小刻みに震えていた。


「仁、言い過ぎだよ！」


部屋に入ってきた湊さんが声を上げたけれど、仁さんはそれを無視して話し続ける。


「あの時死んでれば、琥珀はいつまでも家族と一緒にいれたんだよ？それなのに何1人で生き延びてるの？怖かったからでしょう？首吊るのが怖かった？飛び降りるのが怖かった？…1番死ぬのが怖いくせに、軽々しく死ねって言わない方がいいと思うけどね」


「…俺の何を知ってそんなこと言えんだよクソ野郎死ね」


琥珀が仁さんの目の前に立ち、左手でむんずと彼の胸ぐらを掴んだ。


｢ひっ、｣


思わず2人から後ずさりした私を、誰かが優しく抱きとめてくれる。


｢大丈夫だよ、このくらいいつもの事でしょ？｣


この場に似つかない優しい声は、大也のもの。


そう、私達家族は男ばかりな事もあってよくしょうもない事で喧嘩が勃発していた。


それでも、慣れないものは慣れない。
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